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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)269号 判決

名古屋市中区栄1丁目7番34号

原告

株式会社イズミック

同代表者代表取締役

盛田宏

同訴訟代理人弁理士

佐藤一雄

同弁護士

吉武賢次

同弁護士

神谷巌

同弁理士

矢崎和彦

大阪府高槻市朝日町3番1号

被告

サンスター株式会社

同代表者代表取締役

金田博夫

同訴訟代理人弁護士

松本理

同弁護士

中山正隆

同弁護士

戸越照吉

同弁護士

村田恭介

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成3年審判第17785号事件について平成8年9月17日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」として、「ココ」の片仮名文字をゴシック体にて横書きしてなる登録第2207833号商標(昭和62年10月23日登録出願、平成2年1月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、平成3年9月11日、本件商標の登録を無効とする旨の審判を請求をしたところ、特許庁は、この請求を平成3年審判第17785号事件として審理した結果、平成8年9月17日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月16日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件商標は、前記のとおりの構成態様からなり(別紙1)、前記商品を指定商品として、昭和62年10月23日に登録出願され、平成2年1月30日に登録されたものである。

(2)  これに対し、登録第1700566号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙2のとおりの構成態様からなり、指定商品を上記第31類「調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」として、昭和53年10月4日登録出願、昭和59年7月25日設定登録、平成6年11月29日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

(3)  そこで、本件商標と引用商標との類否について判断する。

ア 本件商標は、「ココ」の仮名文字よりなるものでであり、その構成文字に相応して「ココ」の称呼を生ずるものである。

イ 他方、引用商標は、別紙2に示すとおり、風見鶏風図形と幾何図形及び「ココストア」の仮名文字との結合した構成態様からなるものであり、これに接する取引者、需要者は、当該構成中の「ココストア」の文字部分より生ずる「ココストア」の称呼をもって取引に当たるものとみるのが相当であり、他にこれに反する理由は見出だせないから、引用商標からは、当該構成中の「ココストア」の称呼のみが生ずるものである。

ウ そこで、本件商標から生ずる「ココ」の称呼と、引用商標から生ずる「ココストア」の称呼とを比較するに、両者は、「ココ」の音を共通にするが、後者は、それに更に「ストア」なる音が付加されているものであり、両者は、その構成音の音数の差、音質、音調において大差があり、両者の称呼全体をそれぞれ一連に称呼しても、互いに紛れるおそれはないものと認められる。

更に、本件商標と引用商標とは、その外観、観念においても類似しないことが明らかである。

してみれば、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても、互いに紛れるおそれはなく、両者は、非類似の商標と認められる。

(4)  したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものとはいえず、同条に違反して登録されたものとは認められないから、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。

(5)  なお、請求人(原告)は、引用商標が、「CoCo」なる欧文字からなる登録第1169947号商標と連合関係にあったこと等をも主張するが、当該連合商標は、幾何図形からなるもので、特定の称呼、観念を生ずるものとは認め難く、また、当該連合商標と引用商標の構成中の幾何図形部分とから、特定の称呼、観念が生ずるものとも認められず、連合商標であることを理由に、引用商標から「ココ」の称呼を生ずるものとも認められない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)、(3)アは認める。

同イは否認する。

同ウのうち、本件商標から生ずる「ココ」の称呼と、引用商標から生ずる「ココストア」の称呼とが、構成音の音数の差、音質、音調において大差があり、その全体を一連に称呼しても、互いに紛れるおそれがないことは認め、本件商標と引用商標とが、その外観、観念において類似しないことは否認し、両者が非類似の商標であることは争う。

同(4)は争う。

同(5)は否認する。

審決は、引用商標から生じる称呼の認定を誤るとともに、本件商標と引用商標から生じる観念の認定を誤った結果、本件商標と引用商標とは類似しないと誤って判断したものであり、違法であるから取り消されるべきである。

(1)  引用商標から「ココ」の称呼が生じることにより、本件商標の称呼と一致することについて

ア 審決は、引用商標中の「CoCo」の部分を、幾何図形であり、特定の称呼が生じるものではないと認定したが、上記部分は、一見して欧文字であるCoCoと判断し得るものである。

すなわち、この部分は、引用商標中において最大の面積を占め、看者の注意を引くものであるが、図形化された鶏の図形とは何らの関連性もなく、ほぼ同一書体の「Co」の連続、反復により、一体のものと認識される。

イ そして、わが国においては、英語が広く普及していることから、通常の知見を有する消費者は、この部分を英語風に「ココ」と読むものである。

ウ 更に、引用商標においては、この部分に近接して、片仮名文字で「ココストア」と書かれてある。「CoCo」、「ココストア」は、原告の関連会社である株式会社ココストアが経営するコンビニエンスストアの営業表示として広く使用されているものである。

すなわち、「ココストア」は、中京地区を中心として、600店以上を展開するものとして周知であり、本件商標の登録査定時である平成元年10月27日現在においても、375店のコンビニエンスストアが、「CoCo」、「ココストア」の商標を使用して、食品類等の販売を行っていた。

したがって、一般消費者としては、「ココストア」中の「ストア」を単に業種を表すものとして理解した上、「CoCo」は、上記の周知の営業表示であり、かつ「ココストア」中の「ココ」の部分を英語的に表示したものと理解する(なお、財団法人日本特許情報機構による検索結果においても、他の類の商品を指定商品とし、引用商標と同一の構成を有する商標について、「CoCo」、「ココストア」なる要部が抽出されるものとしている。)。

エ 以上によれば、引用商標からは、「ココ」の称呼が生じるものというべきである。

このことは、引用商標が、「ココ」の称呼が生ずることの明らかな「CoCo」の欧文字からなる登録第1169947号商標(別紙3、以下「本件連合商標」という。)と連合商標とされていた事実、また、旧18類、旧24類、旧25類、旧28類、旧32類の指定商品についても、引用商標と同様の商標と、本件連合商標と同様の商標とが連合関係にあるもの、又はあったものとされている事実からも認められるところである。

オ 他方、本件商標からは「ココ」の称呼が生じるものである。

カ したがって、本件商標は、称呼の点において、引用商標と類似するものというべきである。

(2)  本件商標と引用商標との双方から、同一の観念が生じることについて

ア 引用商標における「ココストア」の文字部分からは、上記のとおり、原告の関連会社である株式会社ココストアが経営する「ココストア」なるコンビニエンスストアの観念が生じることは明らかである。

イ また、本件商標である「ココ」からも、同様に、コンビニエンスストアである「ココストア」の観念が生じるものというべきである。

すなわち、上記のように、本件商標の登録査定当時、「CoCo」、「ココストア」という商標を使用するコンビニエンスストアは極めて多数存在しており、特に食品において「ココ」といえば、株式会社ココストアが経営するコンビニエンスストアであるという認識が存在していたものである。

ウ したがって、本件商標は、観念の点においても、引用商標と類似するものというべきである。

(3)  なお、審決は、本件連合商標は幾何図形からなるものであり、特定の称呼、観念が生じないと認定したが、誤りである。

すなわち、本件連合商標は、「CoCo」の欧文字をデザイン化したものであるが、引用商標中の「CoCo」の図形化された欧文宇とは大きく外観が異なる。この両者が連合商標関係にあるとされたのは、両者から「ココ」なる同一の称呼が生ずるためであることは明らかである。

また、本件連合商標からは、「ココ」の称呼が生じ、その指定商品が食品である以上、原告の関連会社が経営するコンビニエンスストアの観念が生じることも上記のとおりである。

(4)  また、被告は、原告が、かつて、特許庁による「ココストア」の商標の拒絶査定に対し、「ココストア」から「ココ」の称呼、観念が生じることはないと主張したとして、本訴における原告の主張を、禁反言の原則に反するものと主張するが、原告の特許庁に対する上記主張は、昭和54年になされたものであるところ、当時のココストアの店舗数は未だ44店に過ぎず、その店名が周知であるとは主張し得ない状況にあった。したがって、本件商標の登録査定がなされた平成元年10月当時(375店舗)とは状況が異なるものであり、そのことを考慮するならば、原告の本訴における主張が、上記特許庁における主張と矛盾するものとはいえない。

(5)  以上のとおり、本件商標と引用商標からは、同一の称呼と観念が生じ、両商標は類似するものであるから、本件商標は商標法4条1項11号に違反し、その登録は無効となるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

請求の原因1及び2の事実は認めるが、同3は争う。

審決の認定判断は正当である。

1  引用商標から「ココ」の称呼が生じることについて

(1)  商標を観察する場合においては、その商標の全体の構成態様から判断することが必要不可欠である。

そして、引用商標を、全体の構成態様から観察するならば、引用商標に接した取引者、需要者は、一見して、その文字部分たる「ココストア」に着目し、その称呼をもって取引にあたることは明らかであり、これに反して、上記の文字部分から離れて、あえて引用商標の幾何図形部分に着目し、その部分から特定の称呼、観念を生じさせることなどあり得ないというべきである。

(2)  原告は、「ココストア」なる商標は、一般需要者又は取引者にとって周知であるとし、これを前提として、「CoCo」をみる者は、原告の関連会社である株式会社ココストアの営業するコンビニエンスストアを示すものとして、容易に「ココ」の称呼を認識すると主張する。

しかしながら、ココストアの店舗数は、本件商標の登録査定がなされた平成元年10月27日当時、わずか375店舗であり、この程度の店舗数では到底周知性を獲得したとはいえない。

また、店舗の存在する地域についても、平成8年10月末現在の店舗数626店のうち、半数近くの280店が、原告の所在する愛知県に集中し、東京では2店、大阪では40店に過ぎない。更に、平成6年における全国のコンビニエンスストアチェーンの売上高、店舗数等による順位によると、ココストアは、7番目であり、上位6社に比べ、その売上高、店舗数ともはるかに低い。

このようなことからすると、仮に、ココストアについて周知性が認められるとしても、その地域は、愛知県を中心とする一部の区域に過ぎず、全国的規模で周知性を獲得しているとは到底いえない。

したがって、原告の主張するように、「CoCo」をみた者が、直ちに「ココ」の称呼を認識するということはあり得ないというべきである。

(3)  原告は、一般消費者としては、「ココストア」中の「ストア」を、業種を示すものとして理解することにより、「ココストア」から「ココ」の称呼が生じると主張するが、「○○○」の商標と「○○○ストア」の商標とは、実務上、相互に独立の商標として登録、使用されている。これは、「○○○ストア」が一体のものとして、特定の店舗を認識させることを可能とすることによる。したがって、「○○○ストア」は、一個の独立した商標として存在し得るのであって、「ストア」を付加しない「○○○」とは明らかに異なる商標と考えられる。

そのため、「ココストア」の称呼は、少なくとも「ストア」の意味を理解するものにとっては、特定の小売販売店に類するものを観念し得るが、単に「ココ」の称呼だけでは、かかる観念を持ち得ない。

したがって、「ココストア」から「ココ」の称呼が生じるとする原告の主張は成り立ち得ないものである。

(4)  なお、原告の主張する、財団法人日本特許情報機構による検索結果についても、引用商標は、図形として読み取られてデータ化されているものであるから、上記の検索結果から、引用商標より「ココ」の称呼が生じるものとはいえない。

(5)  また、コンビニエンスストアについての調査年鑑(乙第1号証)、食品小売業についての業界誌(甲第32号証、第33号証の1)、コンビニエンスストアであるココストアについてのパンフレット、広告等(甲第34ないし第39号証)においても、ココストアを称呼する場合には「ココストア」とし、「ココ」とは称呼していない。

これらのことも、「ココストア」から「ココ」の称呼が生じないことの証左となる。

(6)  以上のとおり、引用商標から「ココ」の称呼は生じないから、本件商標と引用商標が称呼において一致するものとすることはできない。

2  本件商標及び引用商標から生じる観念について

本件商標あるいは引用商標の「ココ」から、原告の関連会社である株式会社ココストアの営業するコンビニエンスストアの観念が生じるということはない。

このことは、上記1(2)のとおりの「ココストア」の周知性、同(3)のとおりの「ココストア」と「ココ」の商標としての相互の独立性からみて明らかである。

したがって、本件商標と引用商標が、同一の観念を生じさせるということはあり得ない。

3  原告は、特許庁における、昭和54年審判第9082号事件(昭和47年商標登録願第166104号の拒絶査定に対する審判事件)において、「ココストア」の商標から、「ココ」の文字部分のみが抽出されて称呼、観念されることはないと主張し、本件とはまったく反対の主張を行っていた。

これに対し、原告は、現在に至って、「ココストア」の商標から「ココ」の称呼が生じるとの主張をするものであり、このような主張は、禁反言の原則からみても、正当ではないといわざるをえない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1及び2の各事実(特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、審決の認定判断のうち、本件商標及び引用商標の各構成とその指定商品、各登録出願と登録の年月日、引用商標の更新登録の年月日、本件商標から「ココ」の称呼が生じ、引用商標から「ココストア」の称呼が生じること、「ココ」と「ココストア」の各称呼が互いに紛れるおそれのないことについても当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  引用商標から生じる称呼について

原告は、引用商標から、「ココストア」の称呼のほかに、「ココ」の称呼も生じるものであるから、本件商標は称呼の点において引用商標と一致し、両商標は類似すると主張する。

そこで、検討するに、前記争いのない事実によると、引用商標は、別紙2のとおり、「ココストア」の片仮名文字部分、鶏風の図形部分(欧文字の「I」「f」「C」を組み合わせてデザイン化したものと解される。)のほか、ほぼ楕円形の曲線を大きく連ねた部分によって構成されており、その曲線部分は、引用商標のほぼ全面に渡って表示されていることが認められる。

そして、上記曲線部分については、その形状からみて、欧文字の「C」と「o」とを組み合わせ、「CoCo」と表記したものであることが容易に看取されるというべきであり、また、わが国における英語教育の普及状況からみるならば、これに接する、当該指定商品についての一般的な取引者、需要者としては、「CoCo」を英語風に「ココ」と発音するものと理解すると認められる。

そうすると、前記取引者、需要者は、引用商標に接した場合、まず片仮名部分に着目して「ココストア」と称呼するのが通常であるが、引用商標の全面に渡って曲線をもって表示されている前記「CoCo」の部分にも着目し、引用商標全体を「ココ」と呼ぶ可能性があり得るものといわざるをえない。

そうすると、引用商標からは、「ココストア」とともに、「ココ」の称呼をも生じ得るものであり、本件商標と引用商標は、「ココ」の称呼において一致するものと認められる。

2  しかしながら、商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認、混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべきであるところ、その判断にあたっては、商品に使用された商標の称呼、外観、観念によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すべきであり、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。

その場合、通常は、対比される商標の称呼、外観、観念のうちの一つが類似するならば、それらの商標が用いられた商品の出所について、誤認、混同のおそれが生じるものと認めて差支えないが、ただ、商標の称呼、外観、観念の類似の有無とは、本来、あくまでも、その商標を使用した商品についての出所の混同のおそれを推測させる一応の基準に過ぎないものというべきであるから、常に、商標の類否を上記の三点に区分して判断すべきものとすることは適当ではなく、上記の三点のうち、その一において類似するものであっても、他の二点において著しく相違したり、その他取引の実情の如何等によって、商品の出所に誤認、混同を来すおそれを認め難いものについては、これを類似商標とは解すべきではないというべきである(最高裁判所昭和43年2月27日判決・民集22巻2号399頁参照)。

3  そこで、本件においては、上記の称呼のほかに、更に、両商標の外観、観念、取引の実情についても検討を加えるならば、次のとおりである。

(1)  両商標の外観について

ア 本件商標は、別紙1のとおり、ゴシック体の片仮名文字である「コ」を重ねて横書きしたものであり、その構成文字に応じた外観を呈するものである。

イ 他方、引用商標は、別紙2及び前記1のとおり、欧文字である「Co」を横に二つ並べ、右側の「Co」を左側のそれに比べて約3分の2程度の大きさとした部分、鶏風の図形部分、片仮名文字である「ココストア」を横書きした部分をそれぞれ組み合わせたものであり、それらが一体となって図形的な外観を呈するものである。

ウ 以上のような本件商標と引用商標の外観を対比するならば、両者は、その構成を著しく異にし、外観上、相紛れる余地のないものであることは明らかである。

(2)  両商標の観念について

ア 引用商標についてみるに、成立に争いのない甲第2、第31号証及び弁論の全趣旨により成立が認められる甲第30、第32号証、第33号証の1、第34、第36、第39号証によると、同商標は、原告の関連会社である株式会社ココストアの運営するコンビニエンスストア・チェーンにおいて、コンビニエンスストアのシンボルマークとして用いられているものであること、また、コンビニエンスストアである「ココストア」店は、本件商標の登録査定時である平成元年10月27日当時、愛知県を中心に375の出店数を数え、食品等の小売販売を行っていたことが認められる。

上記事実に、引用商標中に「ココストア」との片仮名文字部分も存在することをも考慮するならば、引用商標からは、コンビニエンスストアとしての「ココストア」店の観念が生じるものと認めることが可能である。

イ(ア) 他方、本件商標については、単に、片仮名文字で「ココ」と横書きされたに過ぎないものであるから、そこに、格別の意味内容を見出だすことはできず、そこからは、特定の観念は生じないものというべきである。

(イ) これに対し、原告は、本件商標の「ココ」からも、前記アと同様に、コンビニエンスストアである「ココストア」店の観念が生じるものと主張する。

しかしながら、前記アにおいて認定のコンビニエンスストアの店舗数、及び、店舗が愛知県を中心として設置され、全国的規模において著名なコンビニエンスストアと理解されていないことを考慮すると、当該指定商品についての一般的な取引者、需要者においては、本件商標の「ココ」のみから、原告主張のように観念すると解することは困難というべきである。

ウ そうすると、本件商標と引用商標は、そこから生じる観念についても、著しく異なるものといわざるをえない。

(3)  両商標の付された商品の取引の実情について

本件商標の使用状況については、本件全証拠によっても明らかではない。

しかしながら、引用商標については、前記(2)アのとおり、原告の関連会社によりコンビニエンスストアのシンボルマークとして用いられていることから、それが指定商品の標識として使用されるにあたっては、コンビニエンスストアである「ココストア」において小売販売される商品についての使用に限定されるものと考えられる。

そうすると、コンビニエンスストアに関連する領域以外での指定商品の取引においては、本件商標と引用商標とが競合し、商品の出所に混同を来すおそれがあるとは認められず、また、コンビニエンスストアに関連する取引においても、一般の取引者、需要者としては、コンビニエンスストアのシンボルマークであり、特異な外観を示す引用商標の付された商品と、本件商標の付された商品との出所について区別して取り扱うものと推測されるほか、前記第1のとおり、引用商標からは「ココストア」の称呼も生じ、その音数、音調等からみて、それを一連に称呼し得るものであり、むしろその称呼をもって取引の行われることが多いと予想されるところであるから、引用商標と本件商標とによる出所の混同は、ほとんど生じ得ないものというべきである。

4  以上によれば、本件商標と引用商標とは、称呼の点において一致するものというべきであるが、その外観及び観念において著しく相違するものというべきであり、また、そのことに、前記のような両商標、特に引用商標の現実の使用状況を考慮するならば、両商標が、実際の取引において商品の出所に誤認、混同を生じさせるおそれは認め難いものといわざるをえない。

5  そうすると、結局、本件商標は、引用商標に類似し、商品の出所について誤認、混同を生じさせるものであるとすることはできないから、両商標を類似しないとした審決は、その結論において正当というべきことになる。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 持本健司 裁判官 山田知司)

別紙図面(1)

〈省略〉

別紙図面(2)

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別紙図面(3)

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